歌舞伎舞踊・日本舞踊の名作、
長唄《春興鏡獅子》——。
上演に4,50分かかるこの大作は、
前半が通称《上(jou)》、
後半が《下(ge)》と呼ばれている。
日本舞踊の名作とは、とりもなおさず、
三味線音楽の名作だ。
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これまで、三味線音楽を西洋音楽に移入する、という試みは、数多くなされてきました。しかし、そうした実験作の多くは、三味線音楽の「音階」を、西洋の五線譜にのせるもだったとも、言われています。
今回製作した弦楽五重奏では、「音階」ではなく、三味線音楽がもたらす独特の<間>や、空間を切りさくバチの唯一無二の重力感、そしてお囃子×三味線の協演が圧倒する、日本独自の音楽的<相貌>を現し出すことを目的にしました。

名曲《鏡獅子》の《下》を、いちど解体し、西洋音楽として再構築。
上の目的を達成するために、はじめは西洋音楽の作曲技法に則った和声法で作曲し、しだいに三味線の音階を取り入れながら、曲をまとめました。
課題として残されるのは、歌詞について——。
三味線音楽は、歌詞を再重要視するし、日本舞踊も、歌詞がなければ存在し得ない。この音楽が、日本舞踊作品になるためには、その詞章の問題について思案し創作しなくてはならず、その点が今後の創作の課題になる——。
(追記|その後、歌詞については舞踊劇《人でなしの恋》で実験的振付をしました。また、日本舞踊の動きがもたらす、身体的<美>については《春の海》振付をはじめとして、今後も思案していきます。)
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演奏は、東京外国語大学オーケストラの有志の方々にお願いしました。